東亞合成の研究報に書いたもの

東亞合成の研究報である TREND に書いた記事を「開発的な事項について」にまとめました。
その内容をこっちにも写しておきます。

オキセタン関連の仕事

1992年のR.P.I.への留学から始めた、四員環の環状エーテルであるオキセタン化合物の光カチオン重合に関する報告へのリンクです。

  • オキセタン化合物の光カチオン重合に関する総説
  • 何だか、同じような話を何回も書いています。あまりよろしくないですね。反省します。

  • 2004年
  • 環状エーテルの塩基性等についてMO計算を行い、オキセタン以外の構造のポテンシャルを検討した。
    環状エーテルの塩基性についての検討

  • 2005年
  • 工業的に広く検討されているオキセタンアルコール(OXA)の反応性について、まとめ直した結果を報告。
    OXA/Epoxidesの報告

  • 2007年
  • フェニルオキセタンとの比較で、シクロヘキシル基を有するオキセタンモノマーの特性を報告。β緩和が見られて興味深かったが、工業的にはあまり利用されていない。
    他の人が書いたオキセタンモノマーの報告

その他

オキセタンの光カチオン重合関連以外の事項については、以下にまとめました。

  • 2004年
  • オキセタンアルコールを使って、有機・無機ハイブリッド材料の検討を行ったものです。
    アルミ錯体との組み合わせでカチオン重合が開始できる系で、オニムム塩系の重合開始剤は使っていません。
    結構透明性の高いものになるので面白かったのですが、材料としては使われなかったようです。
    無機とのハイブリッド(2004年)

  • 2008年
  • ホログラム記録材料関連の仕事に関わった際に、重合収縮と記録の品質との関連について、シミュレーションを簡単にやってみた結果です。
    ホログラム記録材料(2008年)

  • 2009年
  • OCTA関連の勉強を行っていく過程で、相分離についての知見が少したまってきたので、まとめてみました。
    結構検索サイトの上位に出てきてしまうので、今となってはちょっと恥ずかしいのですが、一応、リンクを。
    相分離の総説

  • 2010年
  • これは、技術記事ではなく巻頭言ですが、まあ、一応リンクを。
    巻頭言

ネットワークポリマー関連のページを作りました。

レオロジー討論会や高分子討論会で発表しているネットワークポリマー関連のお話と、そのMD計算に用いている、Cognac入力用UDFの作成スクリプトをここに置きます。

とりあえず置いただけですので、時間ができたら書き換えます。

このスクリプトを現在見直していますが、いやー、かなり見にくいですね。
もうちょっと書き方を改善しなくては。

5W1Hの使い方

基本的な5W1H

人に伝える文章を書いたり話したりするときに、情報をきちんと伝えるための基本的なポイントとされる、”5W1H” について考えてみましょう。

Wikiでは、以下のように書いてあります。

5W1Hは、一番重要なことを先頭にもってくるニュース記事を書くときの慣行である。
ニュース記事の最初の段落はリードと呼ばれる。
ニューススタイルの規則では、リードには以下の「5W」の多くを含むべきとされている。
すなわち、
When(いつ) Where(どこで) Who(誰が) What(何を) Why(なぜ)したのか?
である。
しかし日本においては、「5W」にさらに下記の「1H」を含む「5W1H」であるべきであるとされる。
How(どのように)
Wikipedia 「5W1H」

確かに、会社での報告とかでもこれを大事にしろと教えられます。

ちょっと脱線しますと、上記のWikiの後半に、「5W1Hの始まり」は英国の児童文学者で詩人のラドヤード・キップリング書いた物語の一節
だということも書いてありました。

「象のこども(原題:The Elephant’s Child)」は次のような詩で始まっている。
Just_So_Stories/The_Elephant’s_Child
(原文)
I keep six honest serving-men
(They taught me all I knew);
Their names are What and Why and When And How and Where and Who.

(日本語を解するこども向けの意訳)
私にはうそをつかない正直者のお手伝いさんが6人居るんだよ
(その者達は私の知りたいことを何でも教えてくれるんだよ);
その者達のなまえは「なに? (What) 」さん、「なぜ? (Why) 」さん、「いつ? (When) 」さん、「どこ? (Where) 」さん、「どんなふうに? (How) 」さん、それから「だれ? (Who) 」さんと言うんだよ。
Wikipedia 「5W1H」

あのキップリングが最初に使ったというのはちょっとびっくりですね。

閑話休題

でも、この六個の疑問詞は、等価に捉えるべきなんでしょうか?
色んなことを言っている人たちがいます。

色んな重みづけ

「桑原 晃弥」という方が「トヨタ式5W1H思考」という本で、トヨタ式のやり方というものを紹介しています、

トヨタにとって問題は「あって当然」で、「問題がない」というのはほとんどの場合、「問題が見えていない」か「隠している」ことを意味します。
だからトヨタでは、独自の「5W1H」すなわち「WHY、WHY、WHY、WHY、WHY+HOW」で問題に食らいつき、真因を見つけ出すことで、確かな解決策を打つのです。「トヨタ式5W1H思考」のKADOKAWAのサイト

こんな考え方を、働き方改革に使った例もあるようです。
私が別記事に書いた「制約理論」に基づき、働き方を制約するものを導き出すために、「何で」を繰り返し使った「マツダでの使い方」のような例もあるようです。
ここでは、「生産性を制約するもの」を見つけ出すために、何度も「なんで?」を繰り返して、「ボーリングの1番ピン」を見つけ出すわけです。

この考え方は、研究や開発にもダイレクトに応用できる気がします。

バリエーション

結局、「何で?」という疑問をうまく使いこなすことが一番大事なのかもしれません。

で、戯言として、以下のようなものを考えてみました。
「W.H.Y.」
W: Why なんで?
H: ホントに?
Y: やってみる(試してみる)

こんなぐらいが、研究とかには大事なのかもしれません。

ザ・ゴール(制約条件を見つけて全体を最適化)

ちょっと思い出しましたので、かつて会社で購入して10年ぐらい前に読んだこの本を再読しました。
アマゾンでのページ

簡単にまとめれば、「全体を最適化するためには、制約条件になっているものを漏れなくリストアップして、その原因と寄与の度合いをキチンと考えることが重要である。」という感じになります。
大事な点は、「部分に注目してしまうと、逆に、全体のスループットは悪化する」ということだと思います。

制約条件をきちんと取り扱う(制約条件の理論 T.O.C.: Theory of Constraints)ことは、製造現場に限らずに、科学的な考え方全般に適応できる大事な考え方だろうなと思います。

なお、日本を舞台に焼きなおしたコミック版(amazon)もあるようですので、こちらも役に立つかもしれません。

Q&D

表題の「Q&D」は、Question and Discussionということを表します。

接着剤コンサルタントをやられている原賀さんがこの言葉を使われており、なかなかいいなと思いましたので私も使って行こうと思います。

実務に携わっている方たちは、それぞれの場の中で「何故だろう?」という疑問をお持ちだと思います。
で、それに対して、一般論としての「解答(らしきもの)」をお話しすると、一瞬だけ、なるほどという気持ちになる場合もあります。
しかしながら、たいていの場合、「ちょっと私の場合には当てはまらないかなあ」という感じになる場合が多いのではないでしょうか。
その微妙な齟齬を、ゆっくりと議論していくことが一番大事なのだろうなと強く感じております。

私も、馬齢を重ねてきても依然としてそんな場合が多くあります。
特に、実事象を理論的に理解しようとする場合に、教科書に書かれているようなモデリングがなかなか納得できないことが多いですね。
これは、私の理解力不足ということが大きな原因なのですが、議論する相手が見つかると新たな切り口に気づくことができて目の前が開けることがあります。

「Q&D」が行えるためには、発言者としては、『「よくわからないこと」を整理して「人に示せるようになる」ことが一番大事』でしょうし、まわりの場としては、『「相手のわからない点をキチンと推測」して、「ゆっくりとお話を進める」ことが大事』ということになるんでしょうね。

ディープラーニングとシンギュラリティについての戯言

元々、機械学習での材料設計には懐疑的なんですが、依頼されたのでシミュレーションを絡めて機械学習関連の本に小文を書きます。
私だけが全然理解できていない可能性が非常に大きいのですが、やっぱり、一応書いておきます。

ディープラーニング

近年のコンピュータのハード性能の急激な進歩、および、階層化ベイズモデリングのような新たな方法論の展開に伴い、ディープラーニングと名付けられた機械学習手法が急速に進展しているようです。
多層のニューラルネットワークの利用に関する個々のアイテムを見ていけば、確かに、人工知能における問題解決方法の改良は長足の進歩を遂げつつあることは理解できます。

つまり、人間の脳における情報の認識能力であったり、その処理を行うことに関しては、人工知能がかなりの段階に達しているようであり、外部からの情報を認識して処理することで「ある程度の判断を行い」、「人工知能による無人(自動)運転を行うこと」は確かに遠くない未来だと感じています。
ここまでは、私もだいたい大筋を理解できて、納得できます。

シンギュラリティ

で、「シンギュラリティ」という言葉が出てくると、とたんに大きく理解を超えてしまいます。
一般に物理現象でも使われる「特異点(シンギュラリティ)」という言葉が、この文脈の中では理解を大幅に超えたものになっているように感じます。
「技術的特異点」に関するWikiを見ていても、未来学者という方たちが提唱される「技術的特異点」の意味が、私にはよく見えてこないんです。
たしかに、情報収集範囲が格段に広がって、その処理能力がむちゃくちゃに向上してしまえば、「ターミネーターでのスカイネットのようなもの」はできるかもしれません。
また、そのネットが、あたかも意志を持ったような状態になるかもしれません。
確かに恐ろしい状態ではあるのですが、まあ、その程度のことです。

材料設計への応用

このサイトの主題のひとつである材料設計という観点では、人工知能を材料設計にも応用しようという流れも各所に見られています。
人工知能が多様な組み合わせを評価することができれば、あたかも魔法のように新規材料を創成できると感じている方もいらっしゃるような気もします。
「普通の人間の脳を再現する」という意味では、階層的なニューラルネットワークを利用することで「圧倒的に大量な情報量」を「非常に短時間で処理」して、「確からしい適切な判断を下す」ということは、現時点では完璧ではないけれど近い将来にできるでしょう。

しかしながら、材料開発というような非常に多岐にわたるパラメタを調整し新たな方向性を作り出すことについては、「少なくとも私は」、いまだ懐疑的な立場を変えるには至っていないんです。
だって、自動車の運転はかなりの多くの方が実行できる程度の事柄ですが、真に優れた発明・発見は限られた天才のなせる業に違いありません。
この差は依然として大きくて、普通程度の知性の人間が一億人集まっても、新規な発見は期待できないのではないかな。
上述のディープラーニングのストーリーから演繹的に浮かんでくるのは、IQ100 程度のそんなでもない人が何万人もコンピュータの中にいるという絵なので、それで何ができるのかしらという気がするのです。

これって、大きな勘違いをしているのでしょうか。

科学的アプローチ

科学的なやり方

前の投稿に引き続き、再度、クラーク氏の言葉を使って「科学的なやり方」ということを考えてみたいと思います。

  1. 「高名で年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。」
  2. 「可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみることである。」
  3. 「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」

Wikipedia 「クラークの三法則」

開発における挑戦

開発的な意味では、不可能に挑戦するということはとても大事なことだと思います。ちょっと言葉を強く使うと、「盲蛇に怖じず」のようなアプローチなのかもしれません。(私は故事成語をPCという理由で使わないのは嫌いなので、気にせずに使います、)

第一と第二の警句にあるように、「知っているとおごり高ぶって勝手な判断をすること」は明らかにダメで、「不可能(のように見えること)に挑戦すること」こそが大事なことは明らかですね。
でも、確かめもしないで「明らかに無理と分かり切っている方法」で挑戦し続けることはやっぱり徒労にしか終わらないでしょうし、毒蛇にかまれて死んでしまうかもしれません。
その境目は、どのあたりにあるのでしょうか?

多様な分野に通じるということ

やはり、きちんと、現時点の科学の最先端を形成する礎となっているような基礎的な事項を幅広く理解していることが、大事なのではないでしょうか。
そのような基礎的な事項を、きちんと自分の腑に落ちるような表現で身に付け、「人口に膾炙されるような」かみ砕いた表現ができるようにすることこそが、「まるで魔法にしか見えないような科学技術」を使いこなすために必要とされるのではないでしょうか。

科学と魔法

「科学と魔法」

どこかで何度も目にしたような言い古された言葉であるけれども、「科学と魔法」ということを考えてみたいと思います。
有名な使い方としては、「2001年宇宙の旅」や「幼年期の終わり」で知られる著名なSF作家である Sir Arthur C. Clarke の三つ目の法則である以下の言葉でしょう。

「十分に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない。」
“Any sufficiently advanced technology is indistinguishable from magic.”
Wikipedia 「クラークの三法則」

私の解釈

私なりに、この言葉を読み解いてみると、

  • 物の理がわかると「科学」
  • 仕組みがわからないと「魔法」

というような感じになります。

科学的な視点を大事にできる技術者でありたい私としては、当然、様々な物の理を自分の言葉で理解できるようになりたいわけです。
でも、油断すると、頭でっかちな状態に陥って、上記の法則の一番目の警句にある

「高名で年配の科学者が可能であると言った場合、その主張はほぼ間違いない。また不可能であると言った場合には、その主張はまず間違っている。」
“When a distinguished but elderly scientist states that something is possible, he is almost certainly right. When he states that something is impossible, he is very probably wrong.”
Wikipedia 「クラークの三法則」

といった感じで、限界を見誤るような老害ともなりかねません。

開発という観点からの挑戦

翻って、開発という観点で考えてみます。
このとき、「なんだかよくわからないけど、とにかくできる」というような「力技での魔法的な要素」も、当然、必要になってきます。
これは、第二の警句である以下の言葉に対応することになるんでしょう。

「可能性の限界を測る唯一の方法は、不可能であるとされることまでやってみることである。」
“The only way of discovering the limits of the possible is to venture a little way past them into the impossible.”
Wikipedia 「クラークの三法則」

では、開発ではひたすら力業でがんばればなんとかなるかというと、そういうわけでもない気もします。
実際、「理屈がわかれば、その事象の限界も想像できるし、違う切り口の可能性も見える。」とも思います。

結局、どうすれば?

結局、頭だけで考えても、体だけをひたすら動かしても、どちらかだけではダメなんでしょう。
やっぱり、開発をうまく進めるためには、適材適所な人材を少なくとも二人以上集めたチームを組んで、きちんとディスカッションをしながらチームワークで当たるということが大事なんでしょうね。

まあ、年寄りになってしまった私も、横からアドバイスできる形で参加させていただければと願っております。

ネットワーク構造の重要性

ちょっと、依頼原稿を書いているときに、ネットワーク構造のことについて考え直していました。
その部分だけを、いったんここに貼っておきます。

高分子の流動

一般にプラスチックと呼ばれる材料は熱可塑性の高分子材料であり、室温よりはるかに高いガラス転移温度を有するため、室温近傍で固体のようなふるまいを持つ材料として使用することができる。

高分子材料は、そのガラス転移点以上の温度においては、一本一本の鎖がマクロブラウン運動を行うため、粘稠な液体として巨視的な流動が生じて流れてしまう。
これを粘弾性的に考えれば、ガラス転移温度以下であろうとも非常に長時間の観察を行うことで流れるような材料と考えるべきである。

ネットワーク構造による固定

高分子材料の力学特性を利用した材料設計を行う場合に、ネットワーク構造の導入は非常に有効な手段の一つである。
それぞれの高分子鎖が架橋点において連結することにより、ガラス転移点以上の高温においても、マクロブラウン運動が抑制され流れなくなる。

熱可塑性であるプラスチックとの対比から、ネットワークポリマーは熱硬化性樹脂として「硬い材料」と認識される場合も多い。
これは、最初に報告された熱硬化性樹脂がベークライトによる非常に硬い不溶不融な硬化物であったという歴史的背景によるものと考えられるが、ネットワークが常に固いものであるとは限らない。
その典型的な例として、柔らかさと強さを兼ね備えた旧知の材料であるゴムを挙げることができる。

ネットワーク構造の理解

さらに、室温からある程度の高温までの広い温度範囲において硬い材料として知られ、封止剤や接着剤に広く用いられているエポキシ樹脂のような材料であっても、ガラス転移温度以上ではゴム領域となりゴム弾性を示すのであるからその振る舞いを理解することは重要である。

粘弾性的な応答を想定すれば、室温程度のガラス状態での使用においても長時間使用でのクリープ的挙動を把握する必要性は高く、ゴム状態へのガラス転移による緩和に伴うエネルギー散逸も重要なファクターとなる。

「接着関連」にリンクを追加

「接着関連」の固定ページにリンクを追加しました。

Prof. Steven Abbottという方[note]たぶんイギリスの方[/note]のサイトを追加しました。

この方の自己紹介を見ると、私の最も尊敬する先生のお一人であるJ-M Lehn先生のところにいた後に、ICIに行かれた方のようです。
この方は、非常に広範な知識をお持ちなようで、工学的に重要な色んなジャンルのテキストを書いているよう(リンク)です。

接着関連のページに書かれている九つの絵で表した「接着メカニズム」の感覚が、接着力の由来の説明としてとっても妥当な気がします。
つまり、上述のような多数の機構が、一個一個の輪っかとして繋がっていて、それらによって形成された鎖が接着力を発現していると考えます。
その鎖の中の最も弱いところが切れる[note]”Weakest Link Model”として振る舞っている[/note]と考えれば、弱いところがやられるという感じがうまく表現できそうで、どれもが大事だということになります。
これらの感覚を、いずれ、日本語でまとめなおします。

なお、このページからのリンク少しわかりにくくて、タイトルの下の二行の下の段(”Basics”, “JKR”, “Beyond JKR”, “PSA”, “Testing”, “Other”, “The Book”)をクリックすれば飛んで行けます。